「映画賞を取るべき作品…」ミッドナイトスワンの感想をアラサーが語る(ネタバレ有)

草なぎ剛主演映画「ミッドナイトスワン」(2020/9/25公開)。

YouTubeで予告動画が公開されてからものすごーーーーく気になり、公開されてすぐに観に行きました。

(↑ミッドナイトスワン予告編)

とても後を引きづる映画です。(胸糞とかじゃなくてね)

観賞の帰り道も、ずっと主人公の「凪沙」のことばかり考えてしまい、その日の夢にも凪沙が出てくるほど。

こんなに一つの映画に取り憑かれたのは初めてです。

描きすぎず、視聴者に想像を委ねるシーンが多いのも、取り憑かれた理由の一つです。

 

今回は、アラサー女の胸に突き刺さった映画「ミッドナイトスワン」について語っていきます。

がっつりネタバレを含みますので、ご注意ください。

筆者について

・内向的なアラサー独身OL。
・オーディション番組観賞と宝塚観賞が趣味。

 

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LGBT・セクシャルマイノリティ映画への偏見

正直、「LGBT・セクシャルマイノリティ」を題材とする日本映画には、少し抵抗感がありました。

もちろんそれは「LGBT・セクマイ当事者」に対する抵抗感ではありません。

当事者でない俳優たちが「難しい役所に挑戦した」とメディアから注目されることに、どこか違和感を感じていました。

「話題作り?世間からの注目を集めたい?
「だったら、当事者の俳優が演じればいいじゃん」

という具合に…。

これはただのLGBT映画」に対する個人的な偏見です。

おそらく、自分自身、幼い頃に植え付けられた「マイノリティに指をさしてしまう」ということが消えないのでしょう。
中学の時、「オカマ先生」と揶揄していた男性教師の事が思い出されます。

きっと「こういう映画も注目を浴びたいだけなんじゃないか」とどこかで思ってしまっていた。

しかし、この映画で、その偏見が払拭されました。

その理由は後ほど語ります。

 

さらに、ドキュメンタリーではないノンフィクションのLGBT作品を見て、

「彼らの思いを知ることができるのだろうか…」
「変な誤解をしてしまうのではないか…」

と自分の中で、LGBT作品を観ない理由も作っていました。

  

様々な「MTF」がいる

世の中に様々な女性・男性がいるように、世の中には、様々なトランスジェンダーがいる

当たり前だけど、この映画を観て、改めてそう思いました。

「MTF」「FTM」とは?
・MTF(MaletoFemale)男性として出生し、性自認は女性であるトランスジェンダーの人。
・FTM(FemaletoMale)女性として出生し、性自認は男性であるトランスジェンダーの人。
 

TVで植えつけられていた「MTF」像

「心は女性・体は男性」といえば、TVに出ているいわゆる「オネエタレント」のイメージが強いです。

私がよくTVを見ていた10〜15年前には「オネエタレントブーム」があり、「オネエタレント」の番組もあったほど。

彼女たちは、より女性らしい格好振る舞い・喋り方をする。そして、明るくキラキラしているイメージ

「MTF」は「オネエタレント」たちみたいな人たちだろう…、と、勝手なイメージを抱いていました。

 

凪沙という女性…

草なぎ剛さんが演じる主人公「凪沙」はそんなイメージとは少し異なりました。まず、喋り声に驚きました。

喉を開いて低い声を響かせて喋るのです

そして、彼女が一人で住む部屋は、いったて普通。
ドレッサーには美容グッズがあり、壁には可愛らしい雑貨が飾ってある。まさに独身女性の一人暮らしのお部屋です。

(私が5年前に100均で買った雑貨が凪沙の部屋にも飾られいました^^)

本当に彼女自身、真っ赤なハイヒールブーツとトレンチコートがよく似合う、どこにでもいるような女性なのです。

   

映画を見ているうちに「トランスジェンダー」というフィルターはなく、この世の中で生きている「少し不器用だけど、世話好きでクールな凪沙」という女性の物語に入り込んでいました。

「草なぎ剛の演技力がすごい!」を超えて、草なぎさんがあまりにも「凪沙」という女性だったため、この映画を思い返した時に、先ほど述べた「当事者以外の人がLGBTを演じることへの違和感」が全く無くなっていました。

(ほんと、草なぎ剛が演じていることを途中から忘れるんですよね。)

 

アラサーの胸に突き刺さった主人公像

映画の主人公って、一生懸命で、逆境にも負けず、幸せを掴んで…という「THE・主人公」パターン。逆に、大きな傷を抱えてボロボロで‥という「悲劇のヒロイン」パターンが多いですが、凪沙は、どちらの面も持っているような気がしました。

「一生懸命生きるんだけど、そこまで人生は上手くいかない…」これが現実な気がして、不器用だけど一生懸命生きる凪沙の生き方が、とてもリアル。

また、孤独に生きる中で、初めて感じる「母になりたい」という思い。自分も独身で母になる年代なので、ついつい感情移入。

そして私自身、子供の時は全く思はなかったけど、大人になってから思いがけず「バレエ」の魅力に気づいた者です。バレエに心動かされた経験があるので、劇中で描かれる”一果のバレエに心動かされた凪沙”のシーンは、自分のその時の感情を重ね、より共感してしまった。

…このように、主人公への共感・同情ポイントがいくつもあり、物語への入り込み具合が半端なかった。 

 

◆ここからはネタバレ注意

ここからは、ストーリーにも触れていきます。ネタバレ注意です。

あらすじ

故郷を離れ、新宿のショーパブのステージに立ち、ひたむきに生きるトランスジェンダー凪沙。 ある日、養育費を目当てに、育児放棄にあっていた少女・一果を預かることに。 常に片隅に追いやられてきた凪沙と、孤独の中で生きてきた一果。 理解しあえるはずもない二人が出会った時、かつてなかった感情が芽生え始める。

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バレエと母性

 

凪沙は元々、子供に対してそれほど何も思ってませんでした。上京した一果(服部樹咲)と出会った時、「私子供嫌いなの」と警告をするほど。

そんな凪沙が一果に心を開いたポイントは、意外にも自分本意だったと思います。

それは、凪沙が働くショーパブのステージで、一果がバレエを踊っている姿を見た時。

この時、劇中では、凪沙が衝撃を受けている表情のみの描写で、心情などは時に描かれていません。

おそらく凪沙の心の中では、幼少期より心の底から憧れていた美しい女の子。その憧れの姿が、そこで可憐に踊っている一果と重なったのではないでしょうか。

 

バレエは、「人間ってこんなにも美しいのか」と思わせてくれます。
それは想像の何倍も何十倍も。
まさに「人間が生身で表現できる究極の美しさ」です。

その美しさに凪沙は魅了された。

きっかけは一果自身ではなく「バレエ」だったけど、その後、凪沙は徐々に一果に心を開いていきます。

 

本当に不器用な凪沙

一果は、凪沙の手は借りずにバレエのレッスン代を稼ぐため、友達の紹介で怪しいバイト(未成年者の写真撮影会)をしていました。しかし、そこでトラブルがあり警察沙汰になり、凪沙にバレてしまいます。
凪沙は一果に「自分を大切にしなさい。強く生きなさい。」と叱ります。

 

自分自身のホルモン剤注射や今後の性別適合手術のために、お金を貯めていた凪沙。

次第に「一果にバレエをやらせたい」という想いが強くなり、凪沙は、女性の姿で昼職への就職活動を始めます。
しかし、現実は厳しい。

(就職面接シーンの面接官とのやり取りはなんだかリアルでした。お互い若干戸惑っている感じが。)

昼職が決まらないけど、お金を増やしたい凪沙は、昔の同僚の紹介で性サービスの仕事を始めます。

いざその仕事をやってみるものの、やはり彼女には難しかった。
ギリギリで客を拒否したが、逆上した客に襲われかけます。そんな凪沙を助けてくれたのは、仕事を紹介した昔の同僚でした。

(一果には、「自分を大切にしなさい」言ってたのに…。
自分より他人を優先。やりたくない事に手をつけ自己犠牲をしてしまう凪沙は本当に不器用だと思いました。)

 

一番印象的なシーン

ある朝、一果が起きると、そこには作業着を着て、髪を切り、男性姿になった凪沙の姿が。

凪沙は、お金を稼ぐため、男性の姿で就職する道を選んだのです。一果は「頼んでない!」と憤慨してまいます。

「ありのままの凪沙」を望む一果。凪沙にしっかり感情をぶつけているシーンに胸が熱くなりました。

凪沙は、ただ一果を抱きしめます。

 

ただただ母親の愛を感じるシーンでした。(涙)
凪沙は、現在の女性としての生活よりも、未来の一果との生活を優先して、決断したのでしょう。

 

早織の○○さが、まさに毒親

一果はどんどんバレエの才能を開花し、コンクールの舞台にも挑戦するようになります。
バレエのコンクールは、今までの世界とは打って変わった気品のある世界。

(このバレエの世界観と、凪沙たちが生きる歓楽街の世界観の対比がよかったです。)

一果は、今までに感じたことが無いプレッシャーや緊張を感じていました。
また、支えてくれた同じバレエ教室の友人「りん」は怪我によりバレエを諦めることに。
コンクール本番前に、りんが電話をくれましたが、なんだか素っ気なく、心残りのある電話でした。

 

一果は色々な不安を抱えながら舞台に挑みます。
そして本番。不安がピークになった一果は、途中で踊りをストップしてしまいました。
そんな時、舞台上の一果を抱きしめに行ったのは、実母の早織(水川あさみ)。

この時の早織は、ただ”一果のお母さん”なんですよね。酒を飲むと暴力暴言をするのに。
一果も早織の胸の中で安心します。
それをただ観ているだけの凪沙。

その後、一果は地元へ戻り、早織と一緒に暮らします。

 

いや〜、この早織の「一貫生の無さ」「卑怯な毒親」だと思いました。
暴力を振ったり、暴言を吐いたりするが、たまに、子供に優しく接する。

「あなたのためを思って!」
「あなたには私しかいない!」

とか言いながらね。
その一瞬の愛情だけでも子供は「愛された」と思ってしまう。だから、一貫性のない親はたちが悪い

親の感情に子供を振り回すんじゃない!
子供はあんたの感情の吐け口なんかじゃない!

 (筆者こころの叫び)

 

印象深かった役「りん」

一果と同じ学校で、同じバレエ教室に通う「りん」。彼女を演じたのは、2000年生まれの「上野鈴華(うえのりんか)」さん。

家はお金持ち。しかし母親は、ありのままの娘ではなく、「バレエをしている娘」を可愛がる。

私は、彼女の演技に惹きつけられました。

しっかり者なんだけど。どこかこの世の中を諦めている感じや、一果に対する複雑な気持ちなど…、とても演技が上手でした。

今後注目の女優さんです!

 

母になるために「女性」になった凪沙

場面はそれから何年か後。(1年くらい?)

東南アジアで性別適合手術を行い女性になった凪沙は、女性の姿で初めて地元に帰ります。

凪沙の母親は、自分の息子の変貌ぶりにショックを受けているようでした。

実際、年配世代や田舎などでは、トレンスジェンダーに対する認識がまだまだ低いのが現状なのかもしれませんね‥。

凪沙は、一果を引き取り、彼女の母親になるつもりでした。

「あなたはここにいるべきではないわ。バレエを続けるのよ。」と一果に言います。

それに激昂した早織は「一果はうちの娘じゃ。泥棒のオカマが何言うとるんじゃ!」と言い、対抗。

取っ組み合いになり、凪沙の服がはだけ、胸元が露出してしまいます。衝撃を受ける一同。

悔しい思いをした凪沙、そのまま地元を去っていきます。

 

それからまた月日は流れ、中学卒業を迎える一果。表情もどこか明るくなっています。

実は、バレエの先生(真飛聖)が、わざわざ一果の地元まで来て、レッスンをしてくれていました。

そして毒親だった早織も、卒業式で他の親とコニュニケーションを取ったり、一果にやりたいこと(バレエ)をやらせたり…と、母親としてどこか成長している様子。

一果は卒業後、バレエの進路が決定しています。そして一果は、凪沙の元へ向かいます。

 

一果が訪れた凪沙の部屋は、薄暗くゴミが溜まっています。

そこには「オムツ変えてちょうだい」と言って、オムツをして横たわっている凪沙の姿が。

実は、性別適合手術後のケアを怠り、凪沙の身体はボロボロになっていました。(出血をしている。)

視力も落ちており、一果をボランティアの人と勘違いしていた凪沙。

一果だと気づき、「こんな姿恥ずかしいわ」という凪沙だった。

一果と過ごす時は、化粧もして、ちゃんとしている様子をみせる凪沙。愛しい存在の前では美しくありたい‥。

 

「ケアをサボった」についての考察

性別適合手術後にボロボロになった凪沙。手術が失敗した訳ではありません。

彼女は一果にこう言っています。

「サボっちゃったから…」

この「サボった」が気になり、色々調べた所、性別適合手術を受けた元男の子YouTuberさんの動画が大変参考になりました。⬇︎

 

手術の方法にもいくつか種類があるそうです。摘出するだけの人もいれば、穴を作る人もいる。

そして穴を作った場合は、塞がないように毎日ケアしなければならないのです。(それがとても痛いとのこと)

手術して終わりではなく、手術してからが戦いの始まりなのです。

劇中で詳しくは描かれていませんが、凪沙はおそらくこの術後のケアを怠ったのではないか、と予想されます。

 

ラストの海シーン

ラストの海のシーン、衰弱していく凪沙に一果は「帰ろう」と言いますが、凪沙は一果にバレエを踊ってほしいとお願いする。

砂浜でバレエを踊る一果。

海バックのバレエ、美しかったです。

 

バッドエンドじゃないと思う理由

感想レビューをみると、主人公について「報われない」「可哀想」「バッドエンド」などのコメントがありましたが、私はそうは思いませんでした。

確かに、女性としてのコンプレックスを抱えながら生き、手術後、体がボロボロになっていしまった凪沙。事実だけに注目すると悲劇かもしれませんが、それ以上に「一果と出会えたこと」「一果に愛情を注いだこと」は、今まで孤独に生きてきた凪沙にとって、天と地がひっくり返るの出来事だったのだと思います。

「自分の満たされない自己承認欲求を一果で満たした」なんていうコメントも見ました。
それでもいいじゃないかと思います。一果のために生きていた凪沙が、その瞬間幸せだったなら…

そんな人多いんじゃないですか。私もそうです。

「こんな気持ちにさせてくれてありがとう。」

凪沙はそう思っていると信じています。

 

この映画が、日本の映画賞を取らなきゃおかしいよ

大きなタイアップが無いながらも、着々と観客を増やしているこの映画。

そして「第45回報知映画賞」では、5部門にノミネートされました。(そして全て読者投票1位★)

➡︎報知映画賞のノミネート作品をチェック

 

2021年1月に発表される「ブルーリボン賞」や、3月に発表される「日本アカデミー賞」などでもこの映画がノミネートされることを期待しています!

   

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